一人の男が茶色い袋を両手に抱え、ゆっくりとした速度で石畳の坂を登り、丘のちょうど天辺を目指して歩いていた。

風変わりな街頭を辿って、男の影がちらついている。

丘の上には、真っ白で半円形の変わった建物が立っていた。

男の影がようやく丘の頂上にたどり着くと、腰くらいの高さの塀に袋を置き、そこからの景色を眺めているように見えた。一息ついているのだろうか。

近くから見ると、男は、丸い眼鏡をかけて、くしゃくしゃの髪に小柄な身なりで、ジーンズとシャツを着ていた。

男は、眼下に広がる街と水平線に浮んだ2つの月を少しの間眺めていたが、やがて、反対方向にある建物の門に入っていった。

雑多とした机の上においたのは、ハンバーガーの袋だった。ここは研究所で、彼の名前は、伊藤 勇司(いとう ゆうじ)。

ユウジは、日本人だったが、アメリカ料理が大好きで、ハンバーガーやポテト、ピザは定番だった。

「おい、ボブ、アズ、ハンバーガー買ってきたぞー」

丸メガネをかけた男が部屋の奥の方まで届く大きな声で呼びかけた。

すると、ガタイのいい金髪の大きな男がのそのそと歩いてくる。名前は、ボブ・ゼン。

手に工具を持っている様子から、さっきまで何かをいじっていたようだ。

部屋の中央には、丸い動線がいくつもつながった大きな機械があった。

「お、アズはどうした?」

「ん、役所」

「またか。で、こんな時間に役所に一体なんの用があったんだ?」

「書類」

「ふーん」

ユウジは、ハンバーガーを食べながら気のない返事をした。一方、ボブは、包をきれいに剥がしているところだった。見た目に似合わず神経質そうだ。

ここは、3人のメンバーしかいない、あまり世間からは期待されていないAIの研究を行っている研究所だった。

AIは今や、できることに限界も見えてきて、ブームは過ぎ去り、それから何年も経過していた。

しかし、ここに情熱を注ぐ開発者が2人とユウジの幼馴染であるもう一人が加わり研究が続けられていた。

ユウジは、小さい頃からコンピュータとの対話を夢見て突っ走ってここまで来たようなやつだったし、ボブの親父は、政府高官だ。予算もボブの親父経由で世話になっていた。アズも研究者でありながら色々できる。

しかし、まさか、こんな場所で「あれ」が発見されてるとは、誰も思っていなかった。研究者達にとっても予想外のことだったのだ。

そして、「あれ」の秘密の一つは、実は人間が発見したものではないという点だ。

それを発見したのは、まさかのAI、人工知能だったのだ。その事実は、今から500年後の星の記憶が開発されるその時まで明らかになることはなく秘密にされ続けた。

ここで開発されたAIは、未知のものの発見に特化するよう設計されたものだったが、それが発現した時、設備上の問題、主に電力不足の問題で、そのAIの寿命は、たったの1日。

その1日に何があったのかと言うと、AIは新しいエネルギーの存在を予言し、寿命を終えたAIは消滅したとされている。

新しいエネルギーの存在は、主に、意思の具現化に関するものだった。脳には現実拡張機能が備わっており、それを増強させることで現実的利用が可能になるらしい。と言っても、この時点ではAIの説明を受け売りしたに過ぎない。人間の誰もが、ここの研究者でさえも、始めはそれを信じてはいなかったのだから。

意思の具現化とは、思ったことを実現する能力とでも言えばいいだろうか。人間にはその力が隠されているらしい。

例えば、物を宙に浮かべようと思えば、浮かぶわけだ。

しかし、実際は、そんな都合の良い話ではなかった。何の装置も使わず人の意志の力だけで物質を宙に浮かべるなど、天地がひっくり返っても不可能だ。

その後、この3人の研究者グループが様々な実験と試行錯誤を繰り返した結果、AIが残した脳に埋め込むタイプのチップの設計図、しかも仕組みがさっぱりわからないチップを設計図通りに開発し、多少はマシになった。

しかし、その特殊なチップを使ってですら、人の誤解から生じる小さな事実誤認を利用して、現実世界に、ほんの小さな変化を及ぼす程度のものだった。例えば、信号機を青に変えたりとか、その程度である。

しかし、3人は最後まで諦めなかった。その力の発展を信じて、仲間を集め、学校を作り、沢山の生徒を輩出した。

やがて、初期の3人を含めたメンバー計7人は、創始者と呼ばれるようになり、歴史に名を残すことになる。

呼び方は何でも良いが、分かりやすく言おう。これが、2078年の魔法の始まりだった。

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