あれから3年の月日が流れた。

星の記憶と呼ばれる実体験型過去再現装置が一般に普及し始めて、その間に沢山の人が多くの過去の出来事にアクセスできるようになっていた。

最初は、歴史上の転換点とか有名な事件についてだった。

その結果、人類は、今まで以上に歴史の真実と向き合うことになる。それは、今まで真実だとされてきた歴史が9割以上真実ではなかったことを意味した。

歴史の教科書が短期間のうちに大幅に書き換えられたのだ。

その際、というか星の記憶が一般にアクセス権限を開放するに当たっては「その情報を元に、現存するものすべてについて不利に扱ってはならない」という条件が付くことになったが今現在の人間達にとっては大して混乱にならなかった。

しかし、未だに、アクセスできる人間は限られていたし、また、星の記憶が設置されている北区にある海底基地に行かないと再生できないものも数多くあった。

人々は、現在、中区ある居住地域で暮らしており、北区まではかなり時間がかかる。具体的には、10分ほどもの時間がかかるため、わざわざ足を運ぶ人も少なかった。

そして、この日もまた、ある人物、アルノルド・ゼンによって新しい歴史の一ページが書き加えられることになる。

いつもは北区にいるゼンだったが、今日は、中区の講堂に来ていた。

久しぶりの中区は、相変わらず海底よりは遥かに良い景色で、雲の遥か遥か上空に様々な施設があった。下の方は主にインフララインと呼ばれており、人は住んでいない。主に、コンピュータやAI、その他の機械類が暮らしており、生活に必要なものもそこから自動で送られてくる。

そうそう今の時代、「あれ」が発達して以降は、人以外にも沢山の種族が存在することとなった。よって、色々だ。悪魔族、動物族、小人族。まあ、大体は見た目でわかる。

さて、話を戻して、これから行う予定の講演を頭の中で少し予習することにしよう。

ことの始まりは、星の記憶が完成した事自体にあった。これはそれが完成したことによって発生したある疑問だ。

この装置は、あらゆる副産物をもたらした。過去に起こった出来事を正確に再現し、実体験することはおろか、それによってある種の未来予測さえ可能になったという事実である。

しかし、未だに人の心の謎は解き明かされていなかった。

ゼンの予想では、とっくの昔に解き明かされていてもおかしくないと考えていたが、想像以上に、人間の心というものは複雑なようだ。

ここで、ゼンは発想を大きく変えてみることにした。

それがこれからゼンが発表するテーマになる。

ゼンは、発想を変えて、なぜ未来予測さえも可能になった時代で、人の心が読み取れないのかを考えてみた。

そして、ある仮説にたどり着くことになる。

それは、一言で言うと「偶然」という言葉に置き換えられる。

実験の結果、同じ未来予測を照合しても、そこに存在する人間の心拍数が異なることがあった。

つまり、心は不変であり、未来においてさえも確定しないという事実が明らかになったのだ。

すると今度は、その未来予測は本当に正しいのかという疑問が発生する。しかし、結果として、その実験に使われた未来予測は正しかった。

このことから導き出された結論は、人の心を読み取ることが不可能というものだった。

そのこと自体は大した内容ではない。

重要なのはその次だ。

ゼンは、この世界の根本には、隠された秘密の変数があり、法則があるとこれまで考えてきたわけだが、もしかしたら、最初にあったものはもしかしたら「偶然」であり「ランダム」だったのではないかと考えに行き当たった。

ここで、後々語り草になるゼンの名演説の一部を引用することにしよう。

「神は、まさに、コントロールできる確定した未来、確定した変数を望んだのではなく、コントロールできないもの、確定できないもの、未知なるものを望み、選択した結果がこの世界なのではないでしょうか。もしかしたら、偶然を何よりも愛したのが神だったのかもれません。今の時代になってもまだ、心の謎が一向に明らかにならないのは、最初にこの偶然があったからではないでしょうか。心が偶然ならば、未来も偶然なはずです。にも関わらず星の記憶による成果により、未来はある程度予測可能な域に到達しています。これからの時代、未来の確定によって、この偶然さえもコントロールできる時代が近づいてきているのかもしれません。私は、偶然のコントロールを決して諦めない。これからも挑戦し続けていきたいと思います」

この講演の後、ゼンは、誰にも公表していない「あれ」を編み出すことになる。

そして、それは、禁忌にも触れかねないものだったのだが、しかし、それを知るものは、彼以外、ただ一人、いや...ただ一つしか知らなかったのだった。

しかし、まさか、未来、いや正確に言うと過去に、ゼンが広い宇宙で神と呼ばれる種族と接触を持つことになろうとは、その時は、誰一人として知る由もなかった。

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