精神の間

サクラが精神の間をひと目見て、学校の寮へと歩き出した時、子供たちは、精神の間に入っていた。

その中は、何やら不思議な空気に満ちていた。長い廊下を直進すると大きな扉があり、その中に入ると、それほど広くはない円形の小部屋だった。ゆったりしたマットの地面に、たくさんの小道具やおもちゃが散りばめられている。円形の部屋の周りには、ぐるっと様々な絵が飾られていた。

部屋の外側からガラス張りに子供たちを監視するのは、二人の魔法使い。部屋はドーナツのような形だった。たくさんの本棚に、ところどころ椅子と机が並んでいる。少し見下ろすと、円形の小部屋で子供たちが自由に遊んでいる様子が見えた。子供たちの大声ではしゃぐその様子は、厳粛さや神聖さの欠片もないように見える。しかし、ここで行われることそのものは、少し重たい内容だった。

「はあ...私、この儀式が1年のうちで一番、緊張するのよね...」

ポニーテールで三角形のメガネを掛けた女性がそう言って、ため息を付いた。

「おい、アズ、冗談でもそんなことは言うな」

ガタイのいい金髪の大男が注意した。

「ボブ、あなたはいいわよ。だって、子供たちの適正を調べて、クラス分けをするだけだもの」

「いや、これも結構、精神的に重いものが...」

ボブがそう言いかけると、アズはすぐさま反論した。

「私なんて、命名よ、命名。身よりのない名前を持たない子供たちに命名する仕事なの!はっきり言って、私には、荷が重すぎるわ!」

精神の間で行われているのは、どうやら名を持たない子供たちの命名のようだった。

「それにしても、ユウジの魔法はすごいわね。ここまで持続するものは、今まで見たことないわ。子供たちが最初に触れた物を記録するなんて」とアズがそう言った。

すると、ボブは「ああ、そうだな」と頷いた。

「そして、最初に触れたもので名前が決められる。魔法に使われているエネルギーは3年前に発見されたばかりで、魔法と言っても、現時点では、ホコリの一つすら持ち上げられないよね。俺たちだけは、アイが設計した増強チップを使っているけど、この有様さ。だけど、ユウジの魔法はちょっとすごいよな...」

しかし、アズは、少し怖い顔をして「しっ!」と言った。

「アイの話は、しないって約束でしょ」

「ああ、悪い。相手がお前だったこともあって油断した...」

ボブは素直に謝った。

「でも、月面への潜入ミッションの話はいいだろ?あれは、本当に死にそうだったよ、ほんと。ユウジがいなかったら、多分、死んでたね」とボブが言った。

「まあ、そうだわね。ユウジもAIの研究者から転身して、軍隊の訓練を受け、あんな風になるなんて。幼馴染の私ですら予想してなかったわ」とアズが言った。心なしか、その表情はどこか誇らしげに見える。

「しかし、俺たち本当に何もかも手探りで、よくここまでやってきたよな。今では、世界中の危険な状態にある孤児たちを保護して、生活を保証、教育を受けさせてるなんてなあ。まあ、教育と言っても魔法教育だけど...」とボブが言った。

「都市は、将来の運営を任せるためと言ってるけど、でも、本当に今の魔法で子供たちの将来にプラスになるのかしら。私、少し心配だわ。だって、信号機の色を一分間に1回変えられることがあるかないかという程度の魔法なのよ...」アズは心配そうにそう漏らした。

どうやら2173年現在、魔法には、それほど大したことはできないらしい。端的に言えば、しょーもないことしかできないのだ。それがこの時代の魔法の客観的な評価だったし、事実だった。しかし、これでも魔法が発見された3年前の2170年より遥かに進歩してはいるのだが、現状、実用性は皆無だ。

「だから俺たちが、原理は全く人間にも理解できないけど、アイが設計した2つ目の装置をわざわざ苦労して月に置いてきたんだろ。そのうち効果が出るさ」ボブは気楽にそう答える。

しかし、アズは「だから、アイの話はしないで!」と叫んだ。

「魔法を発見したのが実はチームが開発した人工知能だったなんて、そのことが世間に知れたら、本当に大変なことになるわ。表向きは、ユウジが率いる私達の研究チームが発見しましたってことになってるんだから!」とアズが怒る。

「...」

「...」

しばらく無言で見つめ合う二人だったが、ややあってボブは静かに謝罪し、この話は終了することになったのである。

魔法という世紀の大発見にも、色々と秘密があった。

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