サボテンを持った女の子

ボブは仕事をしていた。ここは、精神の間の二番目の部屋。全部で3つの部屋があり、ボブが担当するのは二番目だ。ここでは、子供たちの魔法力の測定を行う。

ボブの部屋の前には、子供たちが列をなして並んでいて、しばらくすると一人ずつ呼ばれ、中に入っていく。そして、数分後に部屋から出てくるの繰り返し。まるで医者の診療室のようだ。

ボブの仕事は、子供たちの魔法力を測定し、クラスを割り振ることだった。具体的には、個人の魔法レベルがここで決定されることになる。とは言え、いくら魔法都市と言っても、この街には、このボブくらいしか他人の魔法力を測定できる人間はいなかった。それくらい、現代の魔法は未発達で、未成熟なのだ。

さらに、魔法レベルと言っても今の所、子供たちにほとんど差はないように見え、誰でも最初は、レベルは1から2の間だった。だから、今の所、ボブの仕事は、それほど難しいものではなかった。杖を振り、曖昧だがボブの感覚だけを頼りに、ある程度の裁量を持って決定するだけだ。

ちなみに、魔法レベルの上限は法律により6と決められていた。ボブたちは、自らが人体実験を行い、自分の体に特殊なチップを埋め込んでいる。そのため魔法力が普通よりも増強されているのだ。このチップを埋め込んでいる創始者たちは、みな最高のレベル6だった。それでも現状、小石一つ浮かべることすらできない程度のものだが...。

たった今測定が終わった子が部屋から出ていくと、次は、サボテンの鉢植えを手に持った女の子が入ってきた。よく見ると、その子は、先程、アズが「月見」という苗字に決めた子だった。

ボブは、平静を装い、マニュアル通りの対応をすることにした。しかし、頭の片隅には、この子は少し変わった子だと感じていた。

ここに来る子供たちは、色々と酷い目にあってきた子供が多かった。ほとんどの子が両親を亡くしている。しかし、子供たちは、ここに来て半年後には、すぐにこの自由で開放的で清潔な街に慣れてしまい、大抵の場合、すごく元気になるのだ。

ボブたちにとって、それはとても誇らしいことだった。子供の回復力というか、適応力と言ったところも大きいのかもしれなかった。ただ、目の前に居る女の子は、なんというか、何かが違っている、ボブはそんな風に感じていた。元気が無いとまでは言わないが、ここで暮らしている割には、ただただ静かだった。

ボブは説明を始めた。まずは杖を向けることからだ。

「これは、杖と言ってね、魔法使いはみんな、魔法道具を使ってでしか、魔法を使えないんだ。今から君を見るために、少しの間、これを君に向けることになるけど、いいかな?」

ボブは、女の子に優しく話しかけた。

「...」

しかし、返事がない。女の子は無言だった。

ここで、ボブは、この街が実行している半年間のプロフェッショナルによる心理ケアがうまく行っていない可能性を少し考えたが、それは多分ないだろうと思い直した。ボブは話を先に進めることにした。

「なぜかと言うと、人間は大昔から道具を使って生活してきた生き物だから、そういうのが遺伝子に組み込まれているんだね...今の所、この考え方が一番有力なんだ」

「...」

またもや無言だった。ボブは、子供たちに「なんで?」とよく聞かれる質問に、勝手に答えることにしたが、あえなく撃沈だった。

「さて、まずは、君の持ち物から調べさせてもらうよ。いいかな?」

「持ち物は、そのサボテンだけかな?サボテンだけ...だね。そう、それは...とても...とても、いいサボテンだね」

ボブは、ぎこちなくそう言った。

「...」

心が折れそうだった。気を取り直して、ボブは杖をサボテンに向け、調べてみた。特に異常は見当たらないし、普通の、ごくごく普通のサボテンそのものだった。

しかし、そう結論づけようとしたその時、ボブはサボテンに名前がつけられていることに気づいたのだ。実は、ボブは、物質に残された痕跡や魔法使いが残す思念のようなものを見つけることができる。これは、ボブが持つ少し特殊な魔法なのだが、実は、他人の魔法力を測定するのも、この力の応用だった。ちなみに、創始者たちは全員が自分だけが扱える少し特殊な魔法を使うことができた。その原因については、現在、調査中だった。何度でも言うが、魔法に関しては、まだまだわかっていないことが多かった。

女の子が手に持ったサボテンは、どうやら誰か、多分、魔力を持った人間が「ユイ」と名付けたものらしい。ボブはそう推測した。

「このサボテン、誰かからのもらい物かな?」とボブは女の子にそう訪ねる。

すると、女の子は、静かに頷いた。ここで、女の子が言葉を理解できることに、ボブは心底安堵した。

「その人は、知ってる人?」

女の子は、首を振った。

とすると、この子は、知らない人からサボテンを貰って、ずっと持ち歩いているということなのか。本当に変わった子だと、ボブはそう思った。

「ユイって知ってる?」

ボブはサボテンにつけられたであろう名前について聞いてみた。

しかし、女の子はまた首を横に振った。

多分、この子は、誰にも知られることなくサボテンに付けられた名前のことを本当に知らないのだろう。

ボブはそんな事を考えていると、この女の子に名前を付けなきゃいけないことを思い出した。そういえば、アズからそのことを頼まれていたのだった。

そこで、ボブは言った。

「君は、これから月見 唯だ。いいかい?」

ボブは、これもなにかの縁だろうと、少し紛らわしいかもしれないが、サボテンに付けられた誰も知らない名前を、この女の子につけることにした。

女の子は、少し間を開けて、ゆっくりと頷いた。

「実は、直前の命名の儀式がうまく働かなかったみたいでね...申し訳ないね」

さて、次は、この子の魔法力を調べないとな。ボブは、そう思って気軽に杖を女の子に向けた。

この魔法都市始まって以来、最大級の秘密会議が開かれることになるとは知らずに...。

results matching ""

    No results matching ""