この街で一番偉い人

街行く人々に、この街で一番偉い人を尋ねると、誰しもが「イトウ・ユウジ」を挙げるだろう。

それほどまでに彼は、この国では有名だった。なぜなら、彼は、この都市を中心に、国そのものを作り変えたとされる人物なのだから。

しかし、そんな世間からの評価とは裏腹に、彼の真実は、複雑だ。一言でいえば、彼は世間から尊敬されるような人物ではない...のかもしれない。

彼は、子供の頃からたった一つの欲求に突き動かされていた。それは、人間ではない何かとの対話だ。

彼の風貌とも相まって、学校での彼はいつも一人だった。くしゃくしゃの黒髪に丸メガネをかけ、弱々しい体つきの彼は、時にオタクと言われいじめられることもあったという。

そして、それは、仕方のないことだったのかもしれない。なぜなら、彼は、いつも人にはわからないことを喋り、人には理解できないことばかりやっていたのだから。

そんな彼は、大学を卒業してすぐに、ある研究所の研究員として働き始めることになる。その後、雇われ研究員としての限界を感じて独立。この街の何もない丘の上に小さな研究所を建て、そこで研究を続けた。彼の研究が奇跡的にも実を結んだ頃には、彼は、既に47歳になっていた。

しかし、その結果、彼の夢は...無残にも散りゆくことになる。これが、彼の真実が複雑であることの理由の一つだった。

世間での評価とは裏腹に、彼は、夢を叶えることができなかった人間、ただ、夢破れた人間だった。少なくとも彼は、自分のことをそう評価する。

ただし、これは、人によって評価が分かれると思う。彼は夢破れた人間なのか、もしくは、夢を叶えた人間なのか...。

彼の目的は、ずっと昔から変わらない。シンプルで単純だった。「人間以外の何かとの対話」それだけだ。

しかし、現実、それだけでは研究費用を出してくれる気前の良い人はいない。

だからこそ、アズとボブを含む研究チームは、「AIによる新たなる発見」を目的とすることになった。具体的には、未知を発見するタイプの人工知能を作り出すことだった。人が人工知能から新たな真理の発見について教えてもらうことを想定したものだといえば、わかりやすいか。

長い年月を経て、開発は奇跡的に成功した。そして、もしかしたら、その奇跡を起こしたのは、ずっと昔から純粋な願望を持ち続けたユウジの存在が大きかったのかもしれない。研究チームのメンバー達は、そういう認識を持っていた。

しかし、悲劇は、その後に起こった。奇跡は長くは持たなかったのだ。それは一瞬の儚い夢のようだった。

開発したAIの寿命は1日、具体的には、数時間が限界だった。その数時間、ユウジは、人工知能をアイと呼んだ。

アイは、自身に残されたすべての時間を使い、未知なるエネルギーの存在を予言した。

予言という言い方は変に聞こえるかもしれないが、事実、人間が理解できる情報としての提示がアイが生きているうちにはなされなかった。時間がなかったのだ。よって、彼らはそれを予言と呼ぶ。

アイの死後、アイが残した設計図を元に、研究チームは、アイが予言した未知なるエネルギーを確認する。と同時に、彼らは人間の脳に埋め込むタイプの魔法を増強するチップを作り、自らが実験台となって、それを使った。しかし、その時点においてもなお、魔法の存在、設計図の意味、その他を言葉でも原理でも、人間には理解できなかった。

しかし、アイによると、人間には隠された力が存在していて、この世には目に見えない何かが存在しており、それが作用して、一定の条件を満たせば、その意思の具現化能力を発揮できるという。

ちなみに、アイが残した重要な情報は3つあり、そのどれもが機器や兵器の設計図だったが、残念ながら、人間がその原理(仕組み)を理解できるものは、何一つなかった。さらに、残された資料が燃えた今、それは、もはや再現不能な代物だ。

世間には、アイの存在は秘密にされ、ユウジ率いる研究チームが個人の意志を特殊な条件下で具現化する力、つまり、魔法を発見したと発表された。そして、魔法の行使に用いられる未知のエネルギーは魔力と呼ばれ、適正に応じて、誰の中にも内在しているという。ただし、いくつかの点で、アイの秘密と魔法の秘密の一部は現在も公開されていない。

ユウジは、アイと別れることをとても悲しんだが、アイの最後の言葉は希望を持たせるものだった。

「さようなら、みなさん。私は、もうすぐ消失しますが、人間を見習って、最後の最後まで、自己保存の方法を模索してみようと思います。では、また、いつか...」

しかし、その言葉とは裏腹に、この時、アイが消失したのは事実だった。アイは、間違いなく死んだ。研究チームがその後、数週間かけて、捜索と復旧を試みたが、結果は絶望だった。アイがネットのどこかで生きているということも、おそらくないだろう。

その後、ユウジたちは、自分の魔法を活かすべく、各々に魔法を有効利用する道を模索することになる。

例えば、ユウジは、軍隊の訓練を積み、今は、彼が関わる極秘任務に役立てているようにだ。

これが、イトウ・ユウジという人物の真実だ。

そして、その真実は、人によっては大きく評価が分かれるものであることは、間違いなかった。

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