接近

男は、何もかもを忘れて、自分の名前すら忘れて、過去の自分からの手がかりといえば、ただ一つの持ち物であるサボテンに付けられた「ユイ」という名前だけだった。

自分でつけたのか、他人が付けたのかわからないが、それは魔法の痕跡を読み取ることによってのみ解読できるものだった。

どれくらいの時間が経っただろう。未だに、この時代の何もかもに慣れず、何かがおかしいと思い続けて、長い、長い歳月が過ぎていた。

実はこの男、不思議なことに、植物と話ができるのだ。これはそのサボテンがおかしいのか、自分がおかしいのか、男にとっては、判断が難しい事案だった。

幸い男は、魔法のようなことが無意識にできたため、一人で、いや、正確にはサボテンのユイと二人だが、生きていくことに弊害はなかった。

しかし、世相では、数年前に初めて魔法が発見されたと言うのだから、おかしなことじゃ。わしにとって、それは、昔からあって当たり前のもののように思えてならなかった。

しかし、魔法が認知された世になってもなお、今の時代への違和感はずっと拭えなかった。

そんなある日、何か懐かしい感覚に誘われて、この空の柱を降り、最初の頃と同じように、わしは、世相を訪れたが、そこで一人の少女と出会う。

そのものの気配はものすごく、言葉に言い表せるものではなかった。わしには、気配を読む力が備わっていて、それがなぜなのかはわからない。ただし、わしの年齢から言って、それは太古の魔法なるものがあるならば、まさにそれだと思う。私は、古代魔法の使い手だった。

話を戻そう。気配には、一つとして同じものはなく、それぞれに全く異なったものじゃ。あるものは、緑色の柔らかな葉っぱのような模様をし、またあるものは、刺々しくバチバチと輝く光のような模様をしている。そんなふうに感じるものじゃった。

さて、その少女、わしが近づけば近づくほど、その気配は増大していくのがわかり、間近に接近したときは、それは、大げさではなく、地球の半分以上もあるエネルギーの塊のように感じた。その少女は、とてつもなく膨大な魔力を持っていたのじゃ。

そして、わしはその力を利用しようと思いついた。

この時代は何かが合わない、何かがおかしい、ずっとそう思い続けてきたからこそ、今の時代の最先端の魔法からも想像できないような古代魔法を扱えるわしだからこそ、何かを変えられる、そう思った。

そこで、わしは、他の魔法使いの誰にも検知できない魔法をサボテンに忍ばせ、彼(サボテンのユイ)にその少女を監視させることにした。

それはうまくいった。しかし、問題は、彼女が魔法を、それもすべてを変えるほどに大きな魔法を放つその時まで、待たなければならないことだった。

彼女がその魔法を放つ時、その瞬間に、彼女の魔法の一部をわしが思い描く通りのものに改ざんし、変更するためじゃ。

わしが彼女と出会ったその時、真の創造計画は始まった。

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