訪問

ここは、マシロ通りにある丘の中腹。

店主がちょうど昼ごはんを食べ終わり、コーヒーを飲みながら、ゆったりとくつろいでいる最中、チリンチリンとベルが鳴った。

しわくちゃの老人は、慌ててコーヒーをテーブルに置き、扉の方を見ると、金髪の大男が、扉から中に入ってくるのが見える。

「おお、ボブではないか。最近どうじゃね」

老人は手を挙げて、ボブに声をかけた。どうやら二人は知り合いのようだ。

「ああ、万事順調...と言いたいところだが、色々と忙しくて。実は、ユウジも来たがったんだけど、あいにくの仕事さ。おやじさんに、よろしくと言ってたよ」

「それは、それは、ありがたいことじゃ」老人は笑いながらそう言った。

「いやいや、テッドが研究所に出資してくれなかったら、研究はやっていけなかったさ。だから、感謝するのは俺たちの方だ。ユウジもそう思ってるよ」

老人は、ありがとう、と丁寧にお礼を言い「今日はどういう要件かな?」と聞いた。

「いや、今日は本当に、ただ寄ってみただけというか、そんな感じさ。あ、そうそう、もうすぐ学校の入学式だから、杖は売れたかなあと思って。ユウジも気にしてたよ」

「ああ、それね。それは...正直、あんまりと言ったところじゃ」

「やっぱりか。そりゃ、今は、ほとんどの人が、大人も含めて実用的なやつはおろか、具現化すらしないからなあ」

「で、あれはどうなんじゃ、お主たちが月に行って置いてきたやつ?」

「いや、もうすぐだと思うんだけど...正直、仕組みを理解してないのでどうにも。ただ、アイが言ってた時期はすぐそこさ」

「なら、安心じゃろう」

「だと思うよ」

「そういえば、好奇心旺盛な子が一人来たよ、杖を一本買っていきおった」

「お、そりゃ...なんというか、変なやつだな」

「おいおい」老人は笑いながらそう言った。

「だって、今持ってても使えないんだぜ。ユウジは手になじませるためには、早いうちから持っておいたほうがいいって言ってるけど、俺にはどうにも...無駄だとしか思えないね」

「それに、この上にある研究所のことを聞いてきおった」

「えっ!それでどうしたんだい?」

「今はなにもないが、気になるなら行ってみるといい、と言っといたよ」

「まさか、アイのことは話してないだろうな?」

「あー、えーっと、どうじゃったかな。最近、忘れっぽくての」

老人は頭を少しかいて、バツの悪そうな、いたずらっ子のような表情でそう言った。

「おいおい、困るぜ、おやじさん」

「だが、見ず知らずのやつには、いくらわしでも、そう簡単には教えんよ。安心せい」

「ははは、まあ、そうだな」ボブは笑いながら言った。

「あそこは、出力コンピュータのライトステージの部品を埋めてあるんだ。ユウジがアイの墓を作ってんだよ...」

「ほお、そんなものが?」

「いや、俺たちは手伝ってないよ。あいつが一人で勝手に...俺はバカバカしいからやめとけと思ったさ」

「...どうりでアイがユウジになつくはずじゃ。いつもならボブ、子供に好かれるのはおまえさんの方なのじゃろ?」

「なんで知ってんだよ!誰に聞いた?」

「ほっほっほっ」老人が笑い声を上げた

「だけどなあ、アイは子供じゃなかったぜ」

「いや、人工知能と言えど、アイは子供じゃった、とわしは思う。それに、子供は瞬間的に大きな魔力を発揮することも多いそうだね?」

「いやいや、アイはどう考えても子供じゃなかったよ。言葉遣いとか、知識とか色々。それに、瞬間的な魔法なんてのは、そんなの強さでも何でもないよ。コントロール不能な力を一時的に発揮したところで、それは何にもならない。たかが知れてるさ。本当の力は、思ったことを思ったとおりに、自らの意思で実現する能力のことだ。そして、これは大人だけが持つことができるものなのさ」

「ほう、そのへんは見解の相違じゃの」

「まあね」

「ユウジはどう考えとるのかね」

「ああ、そういえば、あいつにそんなこと聞いたことなかったな。どうなんだろう?」

「...」

少しの沈黙。そして、

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「ああ、こんなところまで、ご苦労じゃった」

「なあに、ここは、少し懐かしくてね。いつも通ってたから」ボブは人差し指を天井に向けて言った。

「今度は、もっとナイスな情報を持ってくるよ」ボブはそう言い、手を上げて店を出ていく。

それを店主は「楽しみにしとるよ」と見送った。

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