視察

ここは、精神の間の更に地下深くに設置された秘密の部屋。

ここには、この国で唯一のレベル7であるツキミ・ユイが隔離されている。

ただし、レベル7という魔法レベルは、本来存在しない。あくまで上限はレベル6であり、ユイの存在が確認されてから、彼女のため特別に用意された表記だった。世間は、彼女の存在を含め、まだ、誰もこのことを知らない。

コツコツと狭い廊下を、武装した兵士数人、その中心には、でっぷりとした腹に禿げた頭、口ひげが特徴の身なりが良い中年男が歩いている。そして、先頭には、この街では数少ないレベル6の魔法使い3人が先導する。

一般人がこの光景を見たら、なんて物々しい雰囲気だろうと思ったことだろう。しかし、この場所では、そう珍しいことではなかった。

「わしが直々に、ここに来るのは初めてだ。例のあれは本当に大丈夫なんだろうな」

太って禿頭の中年男が言った。

「はい、大人しくしてますよ、アランさん」

ユウジがそれに答える。

「あんな危ないものは、さっさと殺してしまったほうが良いかもしれんな」

「この国では、人権上、そのようなことは断じて認められませんよ。それに...」ユウジはそう言いかけたが、それを遮って、ボブが続きを言う。

「それに、彼女がもしその気になれば、この街は一瞬で蒸発することになります」

「それは、本当かね?わしは、あまり信じてないんだが。ほれ、もしかしたら、お前たちが言ってるだけのことかもしれんだろ」

「...賭ける勇気はおありですか?」ユウジが言った。

「いや、ない。ないが、彼女の魔法を実際に見たものは、ここにおるのかね?」

「...いません。今のところ、彼女がこの街に来てから魔法を使った痕跡は一度も確認されていません」ボブがしぶしぶ認めた。

「だったら、それは本当なのかわからんだろ」

「しかし、危険な行動は、ここではお控えください。間もなく到着します」ユウジがそう言いながら、真っ黒で何の特徴もない硬い扉のロックを解除した。

「こ、これが...」

「はい、ユイです」

「眠っているのか?」

「いえ、眠っているように見えて、実は起きています。部屋の外のモニターで解析しています。実は、創造計画について、彼女に話をしました」

「で、あれはなんと?」

「それ以降、彼女は眠らずに夢を見ています。現実世界のコピーを元に、いくつもの仮想世界を構築しているようです」

「仮想世界?それはどうやって確認を?」

「アズの魔法は、それに最適だったので、アズが確認しています」ユウジが言った。

「はい、私の魔法は、他人の夢に入り込む能力です。なので、彼女が見ている夢に入りました」

「アズの魔法がこんなとこで役に立つなんてな」ボブが笑いをこらえながらそう言った。ユウジも頷いた。アズは怖い顔でボブとユウジを睨んだが、アズの特殊魔法は全く役に立たないという共通認識があったようだ。

「それは...それは、つまり、なんというか、どのように感じたのかね?」アランがアズに聞いた。

「あまりに精巧です。現実と区別が付きません。あんなもの今まで見たことがありません。そこには、現実世界と同じ人間がいて、普通に動き、生活をしています」

「うーむ、まさに、バーチャルコンピュータのようだ。彼女はもしかしたら、コンピュータ・プログラムを専攻していたのかもしれん」アランが真剣な表情でそう言った。

3人は互いに顔を見合わせたが、3人とも「それは全然違う!」という認識で一致した。

「で、彼女は実際に何をやっているのかね?」

「おそらく、どうすれば世界がうまくいくのかを仮想世界でテストしているのだと思われます。最終的には、設計図のようなものを作り、その通りに魔法を実行する予定であるというのが我々、レベル6の見解です。この見解は、ここに居ない者たちのものも含まれます。何度も会合を重ねておりましたので」

「あと、創造魔法の発動には、もしかしたら、大量の魔力の消費先、設計図の作成、実行など、ものすごく時間がかかるものなのかもしれません」

「うん?それは、彼女の魔法には時間がかかるということかね?」

「はい、そういった推測もしております。彼女が一度も魔法を見せていないのは、もしかしたら、そういったことが原因かもしれません」

「......」

アランは、何か考えている様子だ。そして、

「...ふむ、そうか。さて、結論から言わせてもらえれば、ここで彼女を処分する!」

アランは、そう言うと、一瞬で彼が連れてきた特殊部隊が、彼の前に立ちふさがった。その数は、12人にも及んだ。

「な、なにを!」ボブが叫んだ。

しかし、そうなる一瞬前に、ユウジは既に杖の柄を握っていた。そして、しゃがんだ位置から拳銃を部隊の中央にいた男の頭に向けている。

「!!!?」

早速、部隊が銃を対象に向けようとしたが、腕が動かない。そればかりか、体が全体的に動かなかった。

「な、なんだこれああ!」部隊の一人が叫んだ。

「お、おい、さっさと始末しろ!」アランが叫んだ。

「どういうことかわかりません、わかりませんが、体が動きません!」

「僕の魔法を発動した、チェックメイトだ」ユウジが言った。

「な、何を言うか!ほれ、どうした、誰か!誰かああ!」アランが叫ぶ。

「あなたも体を動かせないことは、わかっているはずだ」ユウジが言った。

「ぐぬぬぬっ、一体、これはどういうことだ!」アランが悔しそうに聞いた。

「それはなあ、ユウジの魔法が発動したってことだよ!」ボブは自慢げに叫んだ。しかし、そういったボブも体が動かせないようだった。

「これは、僕の魔法でね。僕はルールを設定できる。この部屋には、たった今、あるルールを設定した。もちろん、部屋にいる者が動かないというルールだ」ユウジがしゃがんだ姿勢から苦しそうに説明する。

「このルールは当然、僕にも適用される。しかし、先に僕が想定した場所に動いていたら、この通り。状況は圧倒的に僕たちに有利だ」

「残念だったなアラン。ユウジは、秘密任務で部隊を率い、本当のところ、そっちの仕事のほうが専門なのさ」ボブが言った。

しかし、アズは、恐ろしそうに、交互の陣営を見ているだけだった。

「だが、お前もトリガーを引けないだろう。多勢に無勢、お前が魔法を解除した瞬間、おしまいだ!」

「いや、この時点で、僕は既に2つのルールを設定している。それは、利き手だよ」

「あっ!ユウジの利き手、確か、右だったはずよ。なんで、左手に銃を構えているの?」

「そう、僕の魔法は、ルールを設定する。と言っても、対象の神経系に影響を与えて、思い込みを与えるだけ魔法なのさ。ただし、それは多くの人間の意識を縛る。先程、利き手が逆になるように変更しておいたよ」

「...ぐぬぬぬっ!」

「どういうことかわかるだろう。慣れていないと、この場面に対処することは不可能だ。銃の持ち手を変更してからじゃ手遅れだし、そのまま打とうとすれば、違和感で的を定めることはできない。しかし、僕にはできる。これがいつも通りの僕の戦術だからね。そのための訓練をしているんだよ」

「おいっ!おまえ、逆の手足でいつも通りやれるか?」

「いえ...そういう訓練は行っておりません。現時点で、計画は崩れ去っています。撤退がベストかと...」

「あの子に手を出すことは、僕が許さない」ユウジが一喝した。

「3秒後に魔法を解除する。動けるようになるはずだ。その時は、武装を解除し、床に伏せろ。両手は後ろ。動いたものがいれば、魔法を再発動して、そして、殺す。手段はいくらでもあるからね...」ユウジは警告する。

アランは、しばらく喚いていたが、部隊は全員が武装を解除し、その後、連絡を受けて警備が到着。全員がおとなしく連行されていった。しかし、アランだけは、その場所に残され、今は帰るところだったが、ユウジに引き止められた。

「アランさん、おわかりいただけましたか。これが魔法です。そして、あそこにいるユイは、僕がその足元にも及ばないほどの魔法能力を秘めています。もし彼女に手を出してしまった場合、一体、どのようなことが起こり得るのか、慎重にお考えください」この国で最強の魔法使いと言われているユウジは、最後にそう付け加えた。

アランは、何も言わず踵を返し、部屋から出ていった。

後日談

「ユウジも人が悪い...」道すがら、ボブは笑いながらそう言った。

「うん?なんのことだい?」ユウジが聞いた。

「そりゃ、能力のことさ。わかるだろ。まさかあれのことだけ説明しないなんて」ボブは言った。

「敵に教えてどうする」ユウジが冷たい声でそう言った。

「いやいや、当たり前のことなんだけど。でも、あいつら、きっと、君のこと超絶マヌケだと思ってるぜ」

「なんで?」

「うーん、なんていうかユウジって、正直そうなのよね。だから本当のことをペラペラ喋ってるように見えるのよ」アズが言った。

「ああ、それそれ。そんな感じなんだよ」ボブが相槌を打つ。

「...もうその話はいいだろ。それよりも、僕が心配なのは、アランみたいな人間がこの街のそれも根幹部分に入り込んでるってことなんだ」ユウジが言った。

「そりゃ、仕方ないさ。国を変えるときも、昔からこの場所を仕切ってきた日本人政治家、大企業の幹部やCEO、そういった人たちとうまくやってこなきゃいけなかったんだから」とボブが言った。

「そうなんだけどさ。でも、持たざる人間、いや、違うな。勘違いした人間がああいう地位に付いてると、危険だと僕は思う」ユウジが慎重に言葉を選んで、そう言った。

「持たざる?アランは金をたくさん持ってるだろ?」ボブが反論した。

「いや、魔法のことさ。彼らは今まで何でも持ってることが当然だった。お金もたくさんの兵士も権力も地位も、生まれたときから、そういったものを持ってることが当たり前だった。でも、魔法が発見され、魔力1と判定された。彼らは、納得できない、そんなのはおかしい、間違ってるって気持ちが強いんじゃないか?そして、彼らは、自分達が持たざるものだなんて、ハナから思っちゃいない。そういうところが...なんというか、危険だよ」

「...それは、厄介だな。世界政府に情報を流されたら、たまんないぜ」ボブが恐ろしそうに言った。

「それはないと思うよ。世界政府がどんなものなのか、彼らは知っている。彼らが保護を求め世界政府にすり寄ったところで、監禁、拷問され、最終的に殺されることは理解しているはずさ」とユウジが言った。

「だったら、何が危険なんだよ」ボブが聞いた。

「それは、この街の魔法使い達さ。彼は、ユイを躊躇なく殺そうとした。多分、自分よりも力の強い魔法使いたちが許せないんだろう。何でもかんでも支配しなければ、満足しないタイプだと思うよ」ユウジが答える。

「まあ、そう見える。だけど、この街のほとんどの人間が彼より強いぜ。初めてここに来た時、あいつらの魔法の弱さは、俺も驚いたものさ。だって、そこら辺に歩いている普通の人間より遥かに弱かったんだぜ。俺は、自分がおかしいのかと、はじめは疑ったよ。でも、今やそういうもんなんだなって、納得してた」

「だけど、それはもうすぐ解消されるはずだわ。月の装置から発せられる波動がもうすぐ届くはずよ。そしたら、彼らの魔法力も少しは強くなるはずだわ」アズが言った。

「...だと言いけど」

ユウジは少し心配そうだった。

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