転生の青

青き転生の炎は、星の中

消えた人々

事件が起こったのは、2176年。ちょうどサクラが中学校を卒業し、これから高校に入学するという時期だった。

ある日突然、沢山の人が消えていなくなったのだ。街では様々な噂が囁かれていた。

その消えた人たちは、主に、この街を裏で牛耳っていた悪徳政治家等を筆頭に、詐欺師、宗教家、マフィアなど様々だった。これは、魔法界だけではなく、むしろ世界政府の幹部や上級市民たちがこぞって、姿を消していた。

「おい、誰か。田中角昌っていう政治家を知らないか。彼は一体どこに行ったんだ?」

「ああ、あの宝くじ業界で顔が利くって言われてた奴か。知らないよ。それよりも、うちの取引先の経営者、鈴木鼓太郎 氏を知らないか?彼もあの日、急に消えていなくなったんだ!」

「悪い噂が絶えない彼のことかい?あんなヤツいなくなったほうがいいだろう。従業員に根拠のない借金を背負わせた挙げ句、無償労働して金儲けしてたようなやつだぜ」

それは、この魔法界で存在が噂されていたクリエイターによる世界改変が行われた年だった。ちなみに、クリエイターとは、創造魔法の使い手のこと。つまり、大方の世間の予想は、魔法国家が創造計画なるものを実行した結果だと考えられていた。しかし、人々が奇妙に思ったのは、魔法界の重鎮からも何人か姿を消していたことだった。魔法国家が極秘裏に進めていた計画が実行されたとして、なぜそれを計画し、実行した人たちまで消えてしまったのだろう。単純にそんな疑問だった。

そして、やはりというか、世間の予想は、真実とは程遠いものだった。

その直前、世界政府が総武力を用いて、軍事攻撃を開始。大規模な侵攻が行われ、都市の中心は、まるで戦場のようだった。しかし、世界政府の侵攻作戦は失敗に終わり、創造魔法の発動によって、事態は収束したようだ。

しかし、大聖堂の地下深くに隠された秘密の部屋内部の出来事を、上層部以外、誰も知らない。

最初の大混乱が収まり、そして、沢山の人が姿を消した数カ月後には、人々はそのことをすぐに忘れ、平和な日常を取り戻していた。むしろ、今の世界では、なぜか、なぜかはわからないが、犯罪率や不正が激減。新しいものが次々生まれ、評価された。人々のストレス値も、以前より遥かに低い。さらに、かつては貧困率99%、世界の富が0.1%未満の人々に集中していたものが、まるで嘘のように数値は改善していく。生活補償制度なども充実し、貧困率など99%から70%、65%と現在も急速に推移している。もしかしたら、世界はより良い方向に急速に発展しつつあると言っていいのかもしれない。一般市民は、姿を消していく人達に恐怖しながら、心の何処かでそう感じているのだった。

秘密の部屋内部、その部屋は、創造の間と名付けられ、一部、魔法界の上層部しか入ることができない。

最終的には、その場所で、世界政府のクリエイター暗殺部隊と魔法使いである世界政府のスパイ、そして、魔法使いレベル6たちが激突した。もしくは、衝突する寸前だった。

しかし、その時、ツキミ・ユイが夢から醒め、瞳を開いた。その瞬間、創造魔法が発動した。

匿名希望の証言によると、ユイの魔法が発動した時、彼女が持っていたサボテンが不気味な光に照らされたらしい。それが何を意味するのか、おそらく、多くの人はわかっていなかったし、レベル6のうち、後々、真実にたどり着いたのは、ユウジただ一人だった。

多くの人間が突然消えるという事件を経て、今もたまに消える人がいたりするが、最初の大混乱から一転、人々は自然に今の状況を受け入れつつあった。なぜだろう?それは、多分、すごい勢いで世界が改善され、日々の不満や不安が無くなっていくからなのかもしれない。

ただし、それは一部の人達の幸せでしかなく、その裏では、不幸になった人達がいた。今まで世界を支配していた人たち、なおかつ悪い心を持った人たちは、一転して、不幸と呼べる状況に陥っていた。

それは、まさに、暗黒の時代の到来であった。

書き換えられた魔法

「あやつは、やはり、魔力だけはあっても、所詮は、子供じゃ。この世の真実に気づいておらず、そして、やり方が生ぬるい。しかし、わしには世界を変えるほどの魔力はなかった。だから、彼女の魔力を使ったのじゃ。創造魔法が発動するその瞬間を狙って、それをわししか知ることのない古代魔法で書き換えた」

澄み切った青い瞳を持つ老人は、手に持ったサボテンに、そう話しかけた。

しかし、当たり前だが返事はない。それは、独り言なのだろうか。

「うん?あやつがやろうとしたのは、単に、その場で激突した世界政府と魔法国家との戦闘を終わらせ、調和するだけの魔法じゃったわい。虹を見せるだけのな。それだけでは、何も変わらんよ」

老人は言った。

「だから、あやつの魔法力を操って、別の創造魔法に変えた。世界中の人々の...心を映す魔法にの」

「心を映して、どうするかって?それはの、人々の願いを叶えるためなのじゃよ」

「今まで思うがままに人々をお金で支配し、多くの人間を奴隷としてこき使ってきた人間は、心の奥底にある願いを持っておった。彼らの真の願いは、自由になることじゃ。じゃが、今までの世界では、彼らは、真の自由にはなれなかった。当然、政府から一定の制限をかけられていたのじゃ。つまり、やりすぎると政府から罰せられ、抑圧されておった。世界政府の法律にはの、例えば、1日中、休むことなく奴隷として働かせたくても、14時間労働という制限があって、1時間の休憩を入れなければ、罰金を課せられる。しかし、彼らは、疑問だった。なぜ自分がやりたいようにできないのか、自由ではないのか。なぜ、罰金や税金などを俺様が払わなければならないのか。自分が儲けた金は、自分だけのものだろう。そのための努力を自分はしてきた。いや、正確には、その努力は、殆ど生まれによって決まっているものなのじゃが、しかし、自分は努力をしてきたので、なぜ、国民のため、怠け者達のためにという思いがあった。俺様が人々を思うがままに支配するのは、当然の権利だと、自由にやれないのはおかしいと憤っておったよ」

「そこで、彼らに、真の自由を提供することにした。転送魔法じゃよ。消えた人々は、ある特区、特別に設けた土地に転送される。そこでは、何をやっても自由じゃ。罰せられることもなく、税金を払う必要すらない。人を殺しても、拷問しても、何をしても、すべてが許される。つまり、ルールがないのじゃ。やりたい放題できる場所、これこそが彼らの求めている真の自由であり、彼らが心の奥底で求めておった願望そのものじゃった。だから、そういう場所に強制的に転送されるようにしたのじゃ」

「これは、そのような心理的性質を持った者、彼らこそが、その土地に、その特別な場所にふさわしく、今では、消えた彼らは、そこで暮らしておるよ。いや、既に死んでおるかもしれんがの...」

「なぜ死んでいるか?それはの、彼らたちと同じような心を持った者たちが集まる場所なのじゃ。日常的に人々を支配し、独占欲が強く、そして、虐殺や拷問に快楽を得る人種のみが暮らす場所。彼らにとって、それこそが本当に求めた自由そのものじゃったが、同時に、それは、危険な場所でもあった。そこでは、当然、虐殺、拷問、強姦、そして、死が毎日のように繰り返される。ほとんどの人間は、特に、世界政府のトップ連中や政治家など1ヶ月も生きてはいられなかった。生まれによって得られた地位からなのか、他人に命令することしか脳がなく、他の精神異常犯罪者たちより遥かに肉体的、頭脳的に脆弱だったからの。田中角昌という政治家なんて、転送された次の日にはもう捕らえられ、1週間くらい監禁、拷問されとったよ」

「少しやりすぎじゃないかとな。わしはそうは思わん。そして、わしにとって違和感のない世界に少しでも近づくためには、そうするしかなかったのじゃ。現に、得たものは大きかった。一定の異常な心理傾向を持ったものを、その土地が引き受けてくれるからこそ、それ以外の世界は、安全、安心になった。公平で公正な社会へと急速に向かいつつある。犯罪不正率は低下し、人々の生活の質は一気に向上した。今では、とある宗教施設の地下にあった子供が性奴隷として監禁されておったような場所は、即座に解体され、宗教施設を運営しておった者達は皆、強制転送された」

「別のやり方があったんじゃないかとな?ユイ、君は、彼女の味方なのかの。いや、すまなんだ、わかっておる。しかし、別のやり方は残念ながら、ない。そもそも善と悪、幸福と不幸は表裏一体じゃ。今まで、多くの支配者たちは、自らの幸福のために、多数の者を不幸に陥れることで、利益と、そして、快楽や欲望を受け取っておったのじゃ。つまり、誰かが幸福になれば、その裏では、誰かが不幸になるというような話じゃの。そういうシステムが大きな割合で稼働していた。今回、それを意図的に主導していた者達が、転送されたのじゃ。もちろん、これは程度の問題に過ぎんが、今の社会レベルからすると、これ以上のやり方は、望めなかった」

「だから、願いを叶えた者達、つまり、転送された者達には、悪いことをしたとは思っておるよ。しかし、彼らがいることで、世界は停滞し、そして、悪化しておったのじゃ。たった0.1%の人間達が、自分たちを幸福で富にするために、99%以上もの不幸と搾取を意図的に生み出しておったのじゃ。他にやりようはなかった。その点で、あの娘がやろうとしていたことは、はっきりいって生ぬるい。そして、無意味じゃったと思う。どこまでも甘すぎたからじゃ」

そんな話をしていると、背後から、何者かの気配を感じ、老人は振り返った。

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