あのときの真実

彼は、あの時、起こった出来事を一生忘れることはないだろう。それほど衝撃的なことがあの場面ではいくつも起こっていた。

創造魔法が発動する前、世界政府とレベル6が対立していた。

そして、ある人物の登場によって、世界政府側が勝利したと思われた。

それは、レベル6のアズだった。部隊を統率する最高責任者の横から顔を出したアズは、ユウジやボブを睨みつけた。

「あ、アズ、なんでお前が...」ユウジが聞いた。

「...」

「なんとか言えよ」ボブが叫んだ。

「...私の考えは既に聞いてたはずよ。ユウジ、ボブ」

「な、何を...」

「あの子は、危険すぎる。世界政府も私と同じ考えよ。殺すしかない」

「しかし、なぜお前が世界政府側に寝返ったんだ、そんなの、そんなの危険すぎる!」ユウジが問いただした。

「それはね、世界政府は魔法を欲しているからよ。特にレベル6相当の力を持った人間をね。だから、あっちで私は、とても丁重に扱われたわ」アズが答えた。

すると、いかにも世界政府トップの人間に見える脂ぎった肉まんのような顔、でっぷりとした腹に沢山のバッジをいくつも付けた男が前に出てきて高笑いを始めた。

「フハハハハ、もはやお前たちの負けは確定だ。アズからお前たちの能力は聞いているぞ。対策もバッチリだ。お前たちは、ここで全員、死ぬ」

そして、手を前に振りかざして部隊に「やれ!」と命令した。

「おい、ユウジ、早くあれを発動しろ!」ボブが急かした。

しかし、

「ぐっ、何かおかしい。ルールが、ルールが発動しない...」ユウジが言った。

「!!!」

「ま、まさか、奴らプラスチック製を」ユウジがそういった瞬間、部隊が銃を構えた。

どうやら、ユウジの魔法は、プラスチックの物質だけには効かないらしい。そう、ユウジの魔法は、ルールを一定範囲に渡って設定する効果があるのだが、しかし、それは、直接人間に当てるのではなく、人間が使う道具を通して、対象にかかる催眠術のようなものだった。だから、ユウジが指定したものを持たない人間にはかからない。さらに、指定したものを構成する大部分がプラスチックだった場合には、なぜか効果を発揮しなかった。

絶体絶命のピンチ、世界政府の勝利が決定したかに見えたその時、

「もういいだろ」ユウジが突然そう言った。

「...はっ?何だ、もういいだろって?何だお前!!」指揮官が高圧的に喋りだし、ユウジの方に向かってズカズカと歩き出した。

すると、その部屋にいた世界政府の全部隊が、一斉にその場に倒れた。

「!!!?!!?」

「アズ、こっちへ」ユウジが、こちらに駆け寄ってくるアズの手を引いた。

「えっ?は?お、おま...」ただ一人、世界政府側で倒れていない指揮官が、交互にユウジとアズを見ながら、悲鳴のような声を出した。

「ああ、寝転がってる奴らのことね。そいつらは、ユウジとアズの魔法の組み合わせで、今まで眠りしながら夢遊病みたいに動いてただけだぜ。さっき、アズが魔法をといたから、今は眠ってるだけだけどな」ボブが説明した。

「...だけど、お前にこれ以上説明してやる義理はない」ユウジが前に進み出て、高官の頭に銃を突きつけた。

「し、しかし、アズはこちら側の...」政府高官は、言い訳がましい口調でつぶやいた。

「いや、いや...最初からアズはこっちの味方だよ。僕たちは、政府に盗聴されている連絡網で連絡なんてしない。僕たちは、夢の中で、アズと話をすることができるんだ。それだけ深い絆で結ばれているんだよ、この三人は」ユウジが言った。

「アズは最後までよくやってくれたよ。俺たちがまるで世界政府に騙されているかのように見せかけていただけなのさ」ボブが言った。

「チェックメイトだ」ユウジが言った。

「だが、だが...お前たちの犠牲も大きい。今回、侵攻する手前、お前たちの仲間も、子供たちも殺しまくってやったぞ。グハハハハ、ざまあみろ!」

「いや、残念ながらここは偽物なのさ。この精神の間の建物とその周辺一帯は、数日前に、複製された偽物と交換されててね。そもそもお前たちが信頼していたアズがこっち側だってわかった瞬間、理解できそうなことではあるけどね。つまり、侵攻計画を含めたすべてをアズが夢の中で教えてくれていたから、予め偽物を用意しておくのは簡単だった」

「か、簡単なもんか。そんなこと一体、どうやって...衛生でも全く確認できていない!」

「ユイがやった。レベル7、創造魔法の使い手なら複製、コピーの類は一瞬だったよ」

「そ、そんな馬鹿なことが、そんな力が、あってたまるかああ!!」政府高官が喚いた。

「さて、そろそろ来るぞ。お前たちの時代の終わりが...。ユイが目覚める」ユウジが言った。

しかし、魔法国家が全面勝利だと思われたその瞬間、何かが煌めいて、そして、その場所からすべての人達が消えていた。

光を放ったのは、部屋にあった一つのサボテンだった。

創造の間から消えた人たちは、どうやら建物の外に移動させられたらしい。ユウジを含めて、何が起こったのかと大聖堂を見つめていたが、突然、大きな地震が発生した。

グラグラと揺れる地面。中はどうなっているんだ。

霊媒の儀式

大聖堂の中、創造の間は、シーンと静まり返り、そこには、二人の人間しか居なかった。他の者達は、全員、建物の外に追いやられていた。

そこにいたのは、ユイともう一人、それは、銀色の長いあごひげを蓄えた一人の老人だった。

とても長身で、透き通るような青い瞳をしている。ユイにサボテンを渡したその人だ。

「さて、ユイ、成功したのかい?」老人はなぜかサボテンの方に歩き、植物に話しかける。

当然ながら返事はない。

「上々。とすれば、こやつには、もうほとんど魔力は残っていない。あれほどの魔法を発動したので、当然じゃのう」老人が言った。

「さて、あとは...あとは、この子を、この剣で貫くのみ」老人が言った。

老人が杖を振ると、どこからともなくキラキラと煌く銀色の剣が現れた。

「ん?この剣はの、神に借りたものじゃ。何でも肉体と精神、魂じゃな、それを確実に葬ることができると言われている、彼の星で語り継がれた伝説の剣らしい。ただ、わしの力では、その肉体に確実に死をもたらすことが精一杯のようじゃ。この剣はのう、使用者によって発揮される能力が違うのじゃよ。だが、それはわしにとって好都合じゃ」

老人は、まるでそこにいる誰かと会話をしているような口ぶりだ。

「わしは、ずっと魂の秘密を探求してきた。今こそ、その真価を発揮する時。霊媒の秘術じゃ」老人は何かを求めるような表情でそう言った。

「霊媒の秘術は、対象者を殺し、その魂がこの星に還る直前に、その魂を自分の肉体に取り込み、己に宿す術。これによって、そのものが持つ魔法力を得られるじゃろう...」

「今こそ...今こそ、その時じゃ。わしがこの子の力を...あの魔力を...」

ぐざり!!

瞳を開けた瞬間、すべての魔力を使い果たし、その場で、たった一人、死んでいるのか、眠っているのかわからなかった女の子の心臓が真上から剣で貫かれた。剣は地面に突き刺さり、印象的な影が部屋の片隅に反射した。

女の子は、もとよりピクリとも動かない。

「うむ...死んだ。死んでおるな」

そして、老人は、女の子が横たわった十字の影を背に歩き出し、そして、地面に何やら円形の光のようなものを描き出した。老人は回転しながら杖を振った。

...何も起きない。

「...っ!」老人がなにか引っかかったような声を出した。

そして、もう一度同じことをする。

しかし、やはり何も起きなかった。

すると背後にゆらりと立ち上る影が見えた。

老人が振り向くと、なんと、さっき死んだはずの小さな女の子が起き上がってるではないか!

老人は、目を丸くし、言葉を失った。

「そ、そんな馬鹿な。ど、どういうことじゃ。なぜ、なぜ死なないのじゃ。一体、なぜ?それに、霊媒の秘術が全く発動せん。この秘術、相手の名前と顔、そして、魔力の形さえ把握すれば、今の術式で間違いなく発動するはずなのじゃ...」老人は慄いた。

女の子は、まっすぐ老人を見つめている。女の子の瞳には、チラチラと青い光が反射していた。

「どういうことかとな?わしにもわからん。うむ、わしは、ツキミ・ユイの顔と魔力は完全に間違えようがなく把握しておる。しかし、もしやその名前が間違っていたのやもしれん。この子は、ツキミ・ユイと名付けられはしたが、しかし、本当の名前があったのやもしれんのう。そして、今のわしには、それはわからん...」

「おそらく、わしの霊媒の秘術が本当の名を使わなかったことにより失敗。この子の魂が、そのはずみで肉体に戻り、一命をとりとめたということじゃろう。あくまで、推測じゃが...」

「しかし、わしの中で最も重要と位置づけた計画は失敗した。名もなき少女に霊媒のため必要になる名前を魔法国家の連中に付けさせ、その上で、少女を殺し、わしの中に霊媒する計画が、最後の最後で破滅するとは...そこでじゃ」老人はそう言って杖を振った。

すると、女の子は、透き通った結晶の中に閉じ込められ、また深い眠りについたようだった。

「明日には、こやつの魔力は復活するじゃろう。そうなれば手が出せん。しかし、こうしておけば安心じゃ」と老人が言った。

「この子の本当の名前がわからない今、この結晶からその魔力を抽出し、世界を支配する計画に変更じゃ」老人は少し悲しそうに言った。

男はこうして、世界政府はおろか、魔法国家までもを出し抜き、それを手にするのだった。

こうして、たった一人の名もなき老人による世界支配が始まろうとしていた。人類歴史上、最悪の暗黒時代が幕を開けた瞬間だった。

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