原始の秘密

「ああ、おらは、あまり話が得意でないからなあ。頼むぞ、カク」少年は黄色のモヤに話しかけた。

そして、カクというモヤが説明をはじめた。

「私は、カクと呼ばれています。地球から遠く離れたカクズラク星の記憶の結晶、星の記憶、その全てにアクセスできる仲介端末とでも言っておきましょうか」

「こちらは、カクズラク、まあ、単に星の名前そのままですけどね。そして、宇宙では、彼のことを神または、妖怪の類、または宇宙ね...」カクがそう言いかけると、少年は、「その別称は、ここでは、教えねえでもいいんじゃねえか」と静止した。

「失礼...つまりですね、星そのもののエネルギーをたった一つの個体に宿す者は、この広い宇宙で神と呼ばれています。あるところでは伝説になり、またあるところでは崇められる。逆に、高次元文明からは珍しさ故、捕獲対象や処分対象になったりすることもあります。そこからは、むしろ神ではなく、モンスターとして呼ばれる事が多いですね。特に、アムなんかでは...いや、こんな話、地球人にしても仕方ないですね」

「さて、では、いかにしてその伝説が生まれるに至ったかを説明することにしましょう。どのようにして神と呼ばれるものが生まれたのか。その経緯を」

「その経緯は、大まかに言うと、あなた方が言う魔法の力がどこから来て、どこに行くのかという話から始まります。それは、星から生まれ、そして、星に還る。つまり、始まりは星なのです。生命の始まりも星から。ただ、それは一つ一つの個体に分散されます。たった一つの個体に集中するということを、星は認めない。生命の始まりは、たった一つの原子生物でした。それは、この星に存在するすべての魔力を有していたとされています。魔力、つまり星の力ですね。そんな小さな小さな単細胞生物がすべての魔力を有していたのです。なぜなら、それは始まりの一つだったから。宇宙にはこういう言い伝えがあります。始まりはすべてを宿す」

「ただし、その原始生物は、それを扱えませんでした。当たり前です。魔法を操る知識を有していませんからね。そして、そのたった一つの原子生物は、いつしか沢山の同じような個体を生み出し、子供を生んで、終りを迎えます。その個体たちは、分散され、均等された魔力をそれぞれに持ちました」

「そんなことを何度も繰り返して、やがて、生命は、2つの性別に分かれます。はじめの原始生物は、性別を持ち合わせていませんでした。しかし、進化するにつれ、同種族が性別によって分かれ、その融合によって、更に進化し、数を増やしていくことになります。その頃には、たった一つの個体から始まり、性別すら持たなかった生物は、やがて爆発的に増え、多種多様で、グラフで表すと、その数は上昇し続ける形となりました」

「しかし、やがては文明もその頂点に至ります。あとに、収束を迎えるのみ。これは変えようのない自然の摂理です。グラフで見ると、天辺を起点に、その数をどんどんと減らし、やがては、性別を失います。つまり、進化しつつも、どんどんと最初の形に戻るのです。最初の原始生命は、性別を持ちませんでした。だから、収束し、終焉に向かう過程で、性別もやがて剥がれ落ちていきます。そうやって、収束し、最初にあったように、たった一つの個体に戻るのです。広い宇宙では、稀にそういうことがあります」

「ここで、仮に、そのたった一つの原始生物から始まった命の旅が、こうした形で終りを迎えたとして、最後の個体の魔力は、一体どうなっているでしょう」

「答えは、すべて、です。これまで生命の数にだけ分散されていた魔力、星の力は、やがて、始まりと同じように、たった一つに集約され、その個体に宿ることになります」

「はじめに生まれた個体は、確かに、同じようにその"すべて"を宿していましたが、しかし、魔法の力を操ることはできませんでした。なぜなら、文明の発展もなく、星の秘密を知ることもなく、魔法知識を一切持たなかったからです。そのような単純な存在だったからです。知性もありません」

「しかし、その後、文明を発展させ、その頂点を境に、自然に数を減らし、一つ一つの個体が独立して理性と知識を兼ね備えた上で、やがて終りを迎えていくと、稀に、宇宙では神とも呼ばれる、たった一つの存在を、その星に生み出すことがあります。それが偶然、この御方だったというわけですね」

「もちろん、神にも色々な方がおられます。単にその力を虐殺と死、己の快楽のみに使う者もいれば、はたまた、他の文明を新たなステージに導こうとする者、自由に宇宙を旅する者など...」

「神には、おおよそ何の制約もないわけですから、彼らは自由に生き、そして、その星の終わりとともに終焉を迎える、そのような存在なのです」

「このカクズラク星の神もそういった存在です。地球人からすれば、多分、良い神の部類なんじゃないですかね。もちろん、これは、単に物の見方の話ですけど」

「そして、私、カクは、星の霊体のようなものです。すべての生命の記憶を有しているが故に、人格は、ほとんど持たず、神という個体の精神を保護するために存在しています。まあ、よくあることですよ。神にこのような付き人が2,3人ついているというのは」

長い話が終わり、老人はその話のすべて理解したと思ったが、いくつか質問があった。

「...なぜ神に付き人が必要になるのですか?」老人はカクと呼ばれるカクズラク星の霊体に質問した。反対に、カクズラク神は、やり取りに全く興味を示さず、のんびりとその辺で遊んでいる様子だった。

「先程も言いましたが、神といえどたった一人の人間に過ぎません。偶然に生まれ落ちたものです。なので、生命の記憶すべてをその個体に入れてしまうと、精神崩壊を起こす危険が極めて高い。なので、その存在が生まれる予測が立った時点で、必要な処置を前任者たちが講じるわけです。カクズラクが生まれる前の時代、その星には12人の人間がいました。そのものたちは、当然、星の1/12の魔力を持った偉大なる者達でしたが、そのものたちが措置を講じました。故に、カクズラクが生まれたとき、私のような存在がそのお世話をしたというわけです。カクズラクは、生まれた時から、ずっとたった一人でした。神は一人なのですよ。ずっと。そういう存在として生まれてきたのです。一応、神となるカクズラク自身にも、これまでの前世の記憶を含め相当の記憶をお持ちではあります。血塗られた人類の歴史。そして、生命の死と戦いの記憶を...」カクが話し終えた。

「それは...それは、我々には想像もできない、長い旅だったでしょう」老人が圧倒されるようにそう言った。

「しかし、なぜわしなのです?神は、なぜ、わしに、そこまで協力的なのです?」

すると、後ろのほうで遊んでいたカクズラクが笑いながら、その質問に答えた。

「あはははは。さっきも言ったけど、神にルールなんてないさ。自由気ままに、やりたいようにやるだけだ。おらは、あんたに、少し似たところを感じたから、面白そうだったから、手を貸してるだけさ」

「似たところ?」

「そう、この時代にいる、他の誰でもないあんたは、何かが違う感じがする。まるで、この星の未来から来たみてえにさ。おらの星にも、頑張って文明を発展させ、その頂点に生きてた奴らなんだけど、そいつらは、なんかおめえさんに似てる気がする。なんとなく雰囲気がさ」

「は、はあ...ですが、私には記憶がありませんよ」

「そんなの関係ねえよ、おらたちにとってはな」

「だけど、一つ忠告していいか?」

「はい、なんなりと」

「おめえは、甘すぎっぞ。なんで、悪人を殺しもせず、監獄にも入れず、自由にさせてんだ?強制転送だっけ?」

「わしには...わしには、それ以上のことはどうしても...」老人は口ごもった。

「それ自体は別にいいんだけどさ。後々、困んぞ。そんなことしてっと。おらは、捕捉した全員消すのが良いと思う」

「それはなぜです?なぜそんなに...」

「うん、さっきカクも言ったけど、発展と成熟、魔法と転生は裏で全てつながってんだ。発展が早すぎっと、星のエネルギーが枯渇する。自然の流れで発展し、成熟に向かった時点で、自然に数を減らすんが本当はいいんだ。そういった流れが普通だ。だけど、今のままじゃ、発展スピードと人間の数が合ってないぞ。成熟したシステムを採用しながら、数が多すぎんだ。この人数が一斉に魔法を使いだしたら、星のエネルギーがなくなっちまうおそれがある」

「...そ、そんな」

「まあ、別にいいさ。おらには、関係ねえ。それは人類の問題だ。ただ、おらは、自分の気分次第で、やりたいようにやるってだけだ。それが神だ。仮に、おらが人間の半分を消すとして、そうすれば、帳尻が合うと思う。そんで、もし、おらのやり方が気に入らないんなら、そんときは、人類の誰かがおらに立ち向かえばいいさ。勝てるとは思えないけどな」

「...」

「さて、話は変わるけど、おらが貸した剣、返してもらっていいか?」

「あ、はい」

老人は、杖を振り、借りていた剣を宙に出した。

「お、それそれ。これは、おらの星にあった伝説の剣なんだ。ありえないような話だろ?」

「いえ、そんなことは。それを言うなら、むしろ神の存在自体がファンタジーですよ」

「あははは、違いねえ。昔、すげえやつがいて、そいつが作ったらしいぞ、この剣は」神が言った。

「これは、魔法の剣で、その者が持つ真の力によって術式が発動するようになってんだ。最終的には、2つの効果が発動するようになっていてな。刺されたものの肉体と魂の死を確実にもたらすと言われてるんだ。多分、こいつを作ったやつは、おらよりも強かったんじゃねえか?」神は説明する。

「そんなバカな。貴方様は星のエネルギーすべてを扱えるのでは?だとしたら、貴方様より先に生まれた人間が貴方様に叶うはずないではありませんか?」老人が疑問を口にした。

「そりゃ違うぞ。確かに、魔力はおらのほうが強え。だけど、その魔力をどう使うかで、強さってもんは変わってくんだ。勝敗も同じだ。おらも、それなりに魔法の訓練をしてきたんだけどよ、しかし、過去の偉人には遠く及ばねえさ。まだまだ修練あるのみ」

すると、カクが口を挟んだ。

「そうですね。生まれたばかりの神は、そりゃ弱かったもんですよ。私がいろいろと訓練を付けて、やっとという感じでした。まあ、カクズラク様は、魔法よりも、武闘のほうが得意なんですけどね」カクが言った。

「あはははは、そうだった。あんときは、おらも、すげえ弱かったぞ」神が言った。

「な、なるほど」老人が言った。

「そんで、これ役に立ったか?」神が聞いた。

「い、いや、実は...」老人がこれまで経緯を説明した。

「ふーん、こいつがそうか?剣で刺されても死ななかったというやつは?」

霊媒の間、中央に置かれたセブンの結晶を見ながらそういった。

「いや、本体は、空の柱に埋まってますよ。なぜなら、ここはレプリカで、単にそこからの映像を映し出しているだけですから」

「レプリカ?どういうことだ、そりゃ?」神が聞いた。

「実は、魔法省が直前に、この建物自体を別の場所に移したんです。そして、レプリカ、つまり、偽物の建物をこの場所に置いたのです」

「なんでそんなこと?」

「この建物は、歴史的建造物だからでしょうね。本物の価値は計り知れない。例えば、一枚の有名な絵があったとしましょう。全く同じ絵でもレプリカには価値がありません。だから本物を予め戦闘の及ばない場所に移転させ、偽物をここに置く計画だったみたいです。これもセブンに与えられていた指示の一つですよ。移転魔法はセブンが使用されたことで、わしのサボテンを通して操作魔法が効きました。わしは、それを改竄し、移転場所を"空の柱"と呼ばれるわしが昔住んでいた巨大な岩山に変えましたので、本物の建物は今はそちらにあります」

「ふーん、そう...ちょっと調べたいことができたぞ。またな」神はそう言って、すぐに居なくなった。

「あ、はい...」老人は呆然とした表情で、それを見送った。

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