月にかかった法

特区と呼ばれる場所に核が放たれてから、数日が経った。

そして、ある男が空の柱にやってきた。

その男がどうやってここを探し当てたのか、見当もつかなかったが、ずっと昔から意外な男だとは思っていた。そして、今、確信した。やつは危険だ、わしにとって。

現在、世界政府と魔法省のトップは融合していて、協力し色々な決めごとを行っていた。なぜこんなに良い方向へ話が進むのか、みんな首を傾げていた。

しかし、問題児は、どこにもおるもので、そやつの名前は、イトウ・ユウジという。かつての魔法省、リーダーのような役割を担っていた男だった。魔法力レベル6の彼は、少々厄介だ。ただ、わしの敵ではなかった。

核ミサイルを特区に撃ち込む計画も、彼を含む数人が猛烈に反対していた。しかし、いくつもの証拠が提出された。人間たちが手足だけになっている姿、そこに作られていた人間奴隷小屋、その他、数々の生々しい写真や映像。そして、こんな話になった。もし彼らがあの土地からこちらに出てきたら、どうなるのだろうという話になった。

そして、いくつもの証拠を突きつけられ、少しずつ反対していた者達の声が減った。最後には、ユウジ一人になっていた。ボブもアズも、この時はユウジの味方にはならなかった。

だから、一人で抱え込み、一人でここに来たのだろう。

ユウジは、このシステムを作り、運用している人間を突き止めようと、心に決めた。

結果、様々な証言や魔法を駆使して、彼は、ここにたどり着いたというわけだ。人間にしてはじめてのう。

ユウジが登ってきた山頂に、見たこともない巨大な赤い鳥の姿があった。

そして、それはいつかユウジが見た鳥だった。

ユウジは鳥に話しかける。

「おい、お前が、ユイを捕らえてたのか?」

「...」

鳥は黙ってこちらを見ている。

「答えろ!5秒以内に答えないと撃つ。1...2...3...」ユウジがカウントダウンを始めた。

そこで、仕方なく、老人は話をすることにした。

「...ああ、わしじゃ。そう、わしじゃよ」

「そなたの願いはなんじゃ?わしが叶えてしんぜよう」

少し聞き取りづらかったが、確かに、鳥が人間の言葉を喋った。

「...まさか、まさか人間なのか?」

すると、鳥の姿が徐々に人の形に変化し、やがて、スラッとした細身で長身の老人が手に杖を持って姿を現した。

「まさか、そんな魔法があるなんて...」ユウジは驚愕した。

「ふむ、わしの魔法は、他の者達とは少し違うのでな。そのエネルギーの使用においても、この時代の魔法より遥かに効率的じゃ」

「だったら、なぜユイをさらったりしたんだ!」

「わしがそれに答える義理はないが、お主は何を望む?」

「それは、それは...ツキミ・ユイの開放だ。そして、転送魔法を解除しろ!」ユウジが言った。

「それはなぜじゃ?」

「あの転送魔法、悪い心を持った人を飛ばすようになっているんだね?僕の知っている人たちも、核ミサイルを賛成した人たちが数人、消えたよ」

「うむ、まさにそうじゃ。しかし、平和と発展にはやむを得ない犠牲じゃっとは思わんか。それに、わしがやっているのは、単に、一定区画への移動のみ。そこに核を打ち込んだのは、他でもない君たちのほうじゃ。わしはそういうやり方に賛成せん」

「あんなところで行われているものを見せられたら、多少の憎悪も人として仕方ないだろ。それを悪い心だとでもいうのか?」

「おそらく、そのものたちは、一定範囲を超えてしまったのじゃ。しかし、お主はどちらの味方なのじゃ。転送も反対、ミサイルも反対。何でも反対すればいいってものでもなかろう」

「僕の考えは言ったはずだ。特区への強制的な転送をやめて、今すぐツキミ・ユイを開放しろ!」

「ほっほっほっ、ツキミ・ユイとな...。しかし、あの子を返すことはできんのう。わしの計画に必要なのでな」老人が言った。

「そうか...」とユウジは言った。次の瞬間、ユウジが銃を構え、杖を使って魔法を発動し、斜め左にさっと移動して、先制攻撃を仕掛けた。

「バンバンバンッ!」

老人は流れるように杖を振った。すると、3発の銃弾が空中で止まる。同時に、地面から赤い炎が燃え上がった。

ユウジは、驚いてその場から逃げようとした。老人だけは、平然とその場に立ち尽くす。彼だけは、なぜか熱く燃え上がる炎の影響を受けていないようだった。

しかし、炎は確実に、ずっとその場にいるユウジを焼き尽くそうとしている。ここにいれば確実に焼死する。

もはや逃げる場所は、飛び降りるしかなかった。だけど、いくら魔法使いでも、ここから落ちたら、どうやっても助からない。

ユウジは、死を覚悟して、その場所から飛び降りようとした。

しかし、その判断が少し遅かった。さっきユウジが放った3発の銃弾が跳ね返され、こちらに飛んでくる。そして、ユウジに当たった。

ユウジは銃弾を浴び、落ちていく。そして、死んだ。

魔法使いとして、はじめから圧倒的な力量差があったのだ。ユウジに勝ち目はなかった。

しかし、本当にそうなのだろうか。本当のことは、最後までわからない。そう、最後まで。

致命傷を負い落ちていくユウジ。そして、もう助からない事は彼にもわかっていた。だけど、最後の最後までやりたいことがあった。あの子のために。ずっと一人だった、でも助けられなかったあの子のために。後悔していた、あのときのことを。

そんな時、杖が光を放った。何かが聞こえる。それは、アイの声だった。

「最上位術式を開放するコマンドを確認しました」

ユウジが最後に聞く声は、アイの声なのか。そんなことをぼんやりと思いながら、確かに、この杖には、アイの部品が埋められている。が、そのことに何の意味もない。

しかし、

「奇跡を可能にするのが魔法なら...アイ、届くか、やつに?」

ユウジが杖に話しかけた。

「法則を上空に設定。解析が終了。対象を打倒することは現時点では不可能」

やつは、ユウジのすべてを賭しても倒せないようだ。

「...なら、月まで届くか?」ユウジが聞いた。

「最高位魔法の発動。命と引換えに、月まで到達可能」

ユウジは、落ちていく中、杖を真上にかかげ、薄っすらと浮かび上がった満月に向けた。

「いっけええええええ!」

ブアッと何かの光が月に向かって放たれたようにみえた。

そして、ユウジは最後の力を振り絞って、一度だけ有効な法則を月にかけたのだった。

(その子の瞳に満月が映る時、隠された力を解き放つ)という魔法を。

ユウジは、それを放った直後、既に事切れていた。そして、落ちていく。

そして、たった一人のために、自己暗示のような効果を持った満月は、その日も夜空に明るく輝いていた。

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